論文の書き方 (岩波新書)

論文の書き方 (岩波新書)

私は文字を連ねることは好きであるけれども、文章を書くこと自体を得意としない。
その不得意の内容はこうである。根本としては、文章におけるコミュニケーションという
動機をあまり持っていないこと。コミュニケーションとしての文章を書く気持ちがそれほど無い。
要は、書きたいことはあるが、伝わらなくても別にいい、ということである。あるいは
私には人間的に欠陥があるのかもしれないが、それはさておき。
文章は少なからず何かしら意味を伝える手段であると考えることは、常識からいっても、
それほど的外れでないだろう。その伝達の対象は、その文章を読むであろう他の誰かであり、
その文章をつづる当の私自身であるとも言える。
さてこの動機の無さは、文章を書くということにおける技術的向上を妨げることになる。
これは何と手前勝手な理屈であろうか、と我ながら辟易するのだけれども、ともかく
その技術とは例えば、文章の論理的記述であったり、形式面における言い回しであったり
多岐に渡るだろう(これらを同格に扱うことについてはここでは不問とされたい)。
これらの技術の獲得は文章によるコミュニケーションの為に必要である。しかし
その当のコミュニケーションを事としない人間にとっては、極端に言えば無用の長物である。
勿論私はそこまで徹底した立場をとるつもりは無いのである。ひょっとしたら単に
文章を書く技術の修練に対する怠慢なのだろうか。
 
前置きが長くなった。「論文の書き方」である。
この著作はいわゆるハウツー本ではない。つまり、こうすれば文章が、論文が書ける、といった
直接的な内容を売りにしているわけではない。といっても、文章を書く上での技術的な側面に
全く触れていないということではなく、著者の文筆活動の体験から培われたノウハウがそこかしこに
収められている。しかし本当のポイントはこの著者の文章に対する愛情にある。文章を書くことへの愛情。
それがこの著作からはにじみ出てきている様に感じられる。